「退職したら薬代が10割になった!」健康保険の切り替え期間中によくあるケースを薬剤師が解説
「退職した翌月、以前と同じように薬局に行ったら"保険証がないので10割負担になります"と言われた」——薬局窓口でよく見かけるケースです。退職後の健康保険の切り替えは意外と手続きが複雑で、タイムラグで保険証がない期間が生じることがあります。今回は、退職後の健康保険切り替えとその間の薬代についてよくあるケースをもとに薬剤師が解説します。
- 退職後に健康保険証が「空白」になるタイミングと理由
- 保険証なしで薬局に行った場合の窓口負担と後日還付の方法
- 任意継続保険と国民健康保険、どちらを選ぶか(薬代への影響)
- 退職前・転職活動中にやっておくべき薬の確保のポイント
よくあるケース:保険証が届くまでの間に薬局に行った
45歳のAさんは、15年間勤めた会社を8月上旬に退職しました。退職後は転職活動をしながら、10年来通院している内科で処方された降圧薬(高血圧の薬)を毎月服用しています。退職直後は有給消化などで忙しく、健康保険の切り替え手続きを後回しにしていたところ、退職から3週間後に薬局を訪れると「健康保険証をご提示いただけますか?」と聞かれました。
「今は切り替え中で…」と答えると、窓口から「確認できる保険証がない場合は、いったん薬代を全額(10割)でいただくことになります」と言われました。いつも月800円台で済む薬代が、その日は全額負担で数千円になり、Aさんは驚いてしまいました。
調剤薬局は保険請求の際に「有効な被保険者証(保険証)」の確認が必要です。手続き中・更新中で保険証が手元にない場合は、いったん10割負担になることがほとんどです。ただし、後日清算できる手段があります。
何が起きていたか:退職後の健康保険の「空白期間」
在職中は会社の健康保険(社会保険)に加入していますが、退職した日の翌日からその保険の資格を失います。退職後は以下の3つのいずれかに加入する必要があります。
| 選択肢 | 概要 | 手続き期限 |
|---|---|---|
| ①任意継続保険 | 退職前の会社の健保を最大2年間継続。保険料は全額自己負担(会社負担分もあわせて支払う) | 退職翌日から20日以内 |
| ②国民健康保険(国保) | 市区町村の国保に加入。前年所得をもとに保険料が決まる | 退職翌日から14日以内(事実上はそれ以降でも遡及適用) |
| ③家族の扶養に入る | 配偶者などの健康保険の被扶養者になる。保険料は原則不要 | 加入から5日以内に事業主が届出(扶養者側の会社に確認) |
Aさんのケースでは、退職後に①〜③のどれにも加入手続きをしないまま3週間が経過してしまっていました。この間は健康保険証がない状態なので、薬局で保険請求ができず10割負担になってしまいます。
国民健康保険は原則として退職した翌日から加入義務が発生しており、加入手続きが遅れても退職日の翌日に遡って加入扱いになります(滞納保険料の支払いが必要)。つまり、後から保険証を受け取り、一度10割負担で支払った薬代を遡って精算してもらうことが可能です。
薬剤師の解説①:10割負担で払った薬代を取り戻す方法
保険証なしで10割負担になってしまった場合、後から保険証が発行されたあとに「療養費の支給申請」を行うことで、7〜9割分の費用を払い戻してもらえます。手続き先と方法は以下の通りです。
| 加入保険 | 申請先 | 必要なもの |
|---|---|---|
| 国民健康保険 | お住まいの市区町村窓口 | 領収書・保険証・申請書(窓口で入手可) |
| 任意継続保険 | 退職前の会社が加入していた健保組合 | 領収書・保険証・申請書 |
| 家族の扶養(協会けんぽ等) | 扶養者の勤務先の健保組合 | 領収書・保険証・申請書 |
大切なのは薬局の領収書を必ず保管しておくことです。払い戻しには時効(国保の場合は2年)があります。薬局によっては「後日、保険証を持ってきていただければ精算できます」という対応をとってくれる場合もありますので、窓口でご相談ください。
薬剤師の解説②:任意継続と国保、薬代への影響の違いは?
薬の自己負担割合(1割・2割・3割)は、年齢と所得によって決まるものであり、国保か任意継続かという保険の種類による差はありません。つまり、どちらを選んでも薬の窓口負担割合は同じです。
ただし、月の医療費が高額になった場合の「高額療養費制度」の限度額(月間自己負担上限)は、前年の所得区分をもとに計算されるため、保険の切り替えタイミングによっては計算の基準期間が変わることがあります。薬代の節約という観点では、保険料の総額を比較してどちらが安いかを確認するのが現実的です。
※どちらが安いかは退職前の収入・家族構成・自治体によって異なります。市区町村窓口で国保の試算を依頼し、任意継続の保険料と比較するのがおすすめです。
薬剤師の解説③:退職前・転職活動中にやっておくと安心なこと
薬を継続して服用している方は、退職のタイミングで以下を確認しておくと窓口でトラブルになりません。
- 退職前に薬を多めに処方してもらえるか相談する(長期処方が可能な慢性疾患の薬は、受診のタイミングを前後させて日数を確保できることがある)
- 退職日・保険証の失効日・新保険証が届く予定日を把握する
- 任意継続の申請期限(退職翌日から20日以内)を守る
- マイナ保険証を活用する(マイナポータルで加入保険の情報がリアルタイムに反映されるため、切り替えのタイムラグが短縮される場合がある)
- 薬局に「保険証は切り替え中」と事前に伝える(薬局によっては後日精算に対応してもらえることも)
退職・転職を予定している場合、事前にかかりつけ薬局に「保険証が切り替わる予定です」と伝えておくと、次回の受診・薬の受け取りをスムーズに調整してもらいやすくなります。薬代についての疑問は、薬局の薬剤師にお気軽にご相談ください。
- 退職後は翌日から旧保険の資格を喪失。任意継続・国保・扶養のいずれかへの手続きが必要
- 保険証なしで薬局に行くといったん10割負担になるが、後日「療養費申請」で払い戻しを受けられる
- 薬局の領収書は必ず保管。払い戻しの時効は国保で2年
- 任意継続と国保の保険料は収入・家族構成で異なる。市区町村で国保の試算を確認して比較を
- 退職前に薬の日数を確保し、かかりつけ薬局に事前に伝えておくのが安心